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名古屋地方裁判所 昭和63年(行ウ)23号 判決

原告 神谷正夫

被告 愛知県西三河事務所長 田澤英俊

右訴訟代理人弁護士 佐治良三

主文

一  本件訴えのうち、被告が昭和六一年八月九日付でした別紙物件目録記載二の家屋についての原告の不動産取得税賦課決定処分のうち納付すべき税額金八万一六六〇円を超える部分の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が昭和六一年八月九日付でした原告の別紙物件目録記載二の家屋(本件家屋)についての不動産取得税賦課決定処分(納税通知書番号第一二三六一号)(甲処分)のうち納付すべき税額金八万一六六〇円を超える部分及び被告が昭和六二年八月一〇日付でした別紙物件目録記載一の土地(本件土地)についての不動産取得税賦課決定処分(納税通知書番号第五〇四二号)(乙処分)のうち納付すべき税額金三万三〇六〇円を超える部分を、いずれも取り消す。

第二被告の本案前の答弁

主文一項同旨

第三事案の概要

本件は、原告が、被告の原告に対する不動産取得税賦課決定処分につき、地方税法七三条の二四、同条の二七の解釈、適用を誤った違法があるとして、その取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  本件土地の取得

原告は、昭和六〇年二月二八日、本件土地を、幸田里前土地区画整理組合(組合)が保留地として取得することを条件として、代金二五六一万円で買い受け、同年三月二九日までに代金を支払い、同日組合からその引渡しを受けたので、同日以降原告において本件土地を使用し、収益することが可能となった。

2  本件家屋の取得

原告は、同年四月一五日、内田工務店又は内田建築工務店こと内田久雄との間で、本件土地上に本件家屋を新築することを代金八〇〇万円で請け負わせる契約(本件請負契約)を締結し、同年九月一四日までに請負代金を支払った。

3  甲処分

被告は、昭和六一年八月九日付納税通知書(納税通知書番号第一二三六一号)で、原告に対し、本件家屋の取得に係る不動産取得税二八万八八八〇円を賦課決定する甲処分を行った。

4  乙処分

被告は、昭和六二年八月一〇日付納税通知書(納税通知書番号第五〇四二号)で、原告に対し、本件土地の取得に係る不動産取得税一四万二四八〇円を賦課決定する乙処分を行った。

5  甲処分についての審査請求

原告は、昭和六一年八月一三日、甲処分についての納税通知書を受け取った。

原告は、甲処分につき、同年一二月二一日付審査請求書を、同月二二日付郵便官署の通信日付印が押印されている封書によって、郵送により愛知県知事に対し提出し、右書面は同月二三日付で同知事に到達した。

愛知県知事は、昭和六二年七月二〇日付で、審査請求期間徒過を理由に、原告の審査請求を不適法却下する裁決をした。

6  乙処分についての審査請求

原告は、昭和六二年八月一三日以降ころ、乙処分についての納税通知書を受け取った。

原告は、同年一〇月一一日付で、愛知県知事に対し、審査請求をしたが、同知事は、昭和六三年五月一三日、右請求を棄却する裁決をし、そのころ右裁決書は原告に到達した。

二  争点

1  本件訴えのうち甲処分の取消しを求める部分の適法性

(一) 本件訴えのうち甲処分の取消しを求める部分は、行政事件訴訟法(行訴法)一四条所定の出訴期間内に提起されたものであるとの原告主張の当否。

(二) 地方税法一九条の二により、県税の賦課決定処分取消しの訴えを提起するためには審査請求を経なければならないところ、本件訴えのうち甲処分の取消しを求める部分は、適法な審査請求を経たものであるとの原告主張の当否。

2  乙処分の適法性

本件家屋は、地方税法七三条四号に規定する「人の居住の用に供する家屋」に当たらないことを前提に、同法七三条の二四第一項、同法附則一一条の三第一、二項及び愛知県税条例(愛知県条例第二四号)四三条の一三第一項、同条例附則二〇項の規定する税額の減額措置をせずに本件土地の不動産取得税額を決定した乙処分は適法であるとの被告主張の当否。

第四争点に対する判断

一  争点1について

争点1(一)について判断するに、《証拠省略》によれば、甲処分について原告の審査請求を却下する裁決書は、昭和六二年七月二一日に原告に到達し、したがって、原告は右同日に右裁決のあったことを知ったものと認められる。そして、原告が甲処分のうち納付すべき税額金八万一六六〇円を超える部分の取消しを求める本件訴えを提起したのは原告が右裁決のあったことを知った日から三か月以上経過した昭和六三年七月一三日であることは、当裁判所に顕著である。

よって、本件訴えのうち右取消しを求める部分は、行訴法一四条一項所定の出訴期間を徒過してなされた訴えであり、争点1(二)について判断するまでもなく、不適法である。

原告は、この点について、右訴えは、行訴法一四条三項所定の期間内に提起されていること、また、乙処分についての審査請求に対する裁決が出されていない段階でそれと同一の争点を持つ甲処分について取消訴訟を提起することは期待できないことを理由に、適法であると主張するが、右はいずれも独自の見解であって、到底採用することはできない。

二  争点2について

1  地方税法七三条の二四、愛知県税条例四三条の三は、土地の取得者に課税される不動産取得税について、土地を取得した者が当該土地を取得した日から二年以内に当該土地の上に一定の要件を充たす「住宅」を新築した場合には、当該土地の取得に係る不動産取得税を軽減すべきことを規定している。

ところで、右にいう「住宅」とは、本件家屋のような一戸建ての家屋の場合については、同法七三条四号が規定するように「人の居住の用に供する家屋」をいうものであり、当該家屋が右住宅に当たるか否かの判断は、当該家屋を取得した時、すなわち、当該家屋について最初の使用が行われた日(同法七三条の二第二項、同条例四三条二項)における当該家屋の構造、利用状況を総合してなすべきものである。

そこで、被告主張の乙処分の適法性の当否を判断するため、右に述べた本件家屋の取得時における本件家屋の利用状況、構造等を総合して、本件家屋が「人の居住の用に供する家屋」と認められないか否かについて、以下判断する。

2  認定した事実

(一) 本件家屋の取得時

《証拠省略》によれば、原告が内田から本件家屋の鍵を受領したのは昭和六〇年七月七日であったが、電気の供給は同月一五日から開始されていることが認められるから、本件家屋について最初の使用が行われた日、すなわち、本件家屋の取得日は、早くても電気の供給が開始された昭和六〇年七月一五日であると推認するのが相当である。

もっとも、原告は、本件家屋について最初の使用が行われた日は、原告が内田から鍵の引渡しを受けた昭和六〇年七月七日であると主張し、それに沿う《証拠省略》があるが、右原告本人の供述は、鍵を受領した日から電気の供給が開始される日まで、原告は本件家屋に夜間真っ暗な中で居住していたとするものであって、電気供給の開始前に本件家屋の使用を始めなければならない特段の事情の認められない本件においては、右の証拠内容は、不自然であって信用することができず、したがって、右原告の主張は認めることができない。

(二) 本件家屋の構造

《証拠省略》によると、本件家屋は、台所、食堂、浴室、便所、洗面所、和室等の居室からなり、人の居住の用に供し得る通常の構造を備えた建物であると認められる。

(三) 本件家屋の利用状況等

(1) 請負代金に関する取決め

本件家屋の請負代金が八〇〇万円であることは、前記第三の一2に記載したとおりであるが、《証拠省略》によれば、内田は、内田の従業員と原告が本件家屋の請負代金を取り決めた際、本件家屋を展示用住宅として利用する見返りとして、その請負代金を通常より安くした旨供述し、《証拠省略》によれば、原告自身も、内田が本件家屋を顧客に見せることを承諾したこと、請負代金を決める際に、内田に対し、「しっかり値打ちにやってくれ」と要求したことが認められる。実際にも、《証拠省略》によれば、本件家屋は、瓦が陶器瓦であり、給水栓取付け箇所も6箇所あることなどから、内田が「モデル住宅」として請負代金八〇一万円で請け負う旨広告するセレクトアYA型HiDX仕様に当たると認められるところ、それとほぼ同じ仕様の家屋(乙一二の裏面に「木造注文住宅」として掲載されているもの)につき通常要する建築費が一平方メートル当たり八万七八七八円(乙一二に記載された請負代金を床面積で除し、一円未満を切り捨てて算出したもの)であるのに対し、本件家屋の建築費は一平方メートル当たり七万四三二一円(本件家屋の請負代金八〇〇万円を乙一八によって明らかな本件家屋の実測の床面積で除し、一円未満を切り捨てて算出したもの)と安くなっていることが認められる。

なお、《証拠省略》の内田の広告には、本件家屋とよく似た外形を有する家屋(セレクトアYA型)の請負代金が八〇一万円と記載されているが、右家屋はエレガンス仕様と表示されているのに対し、本件家屋は、前記認定のとおり、HiDX仕様であり、《証拠省略》が示すように、HiDX仕様の方がエレガンス仕様より高価な素材等を用いていることからすれば、《証拠省略》の記載は、前記認定に影響を与えるものではない。

(2) 内田の利用状況

《証拠省略》によれば、昭和六〇年七、八月ころから同六二年一二月ころまで、本件家屋付近には「モデル住宅展示場、内田工務店」の看板が、本件家屋南側の国道二四八号線沿いには「モデル住宅展示公開中、内田工務店」なる看板がそれぞれ立てられ、また、本件家屋のまわりには「内田ホーム」なる幟が立てられていたこと、内田が昭和六二年一月ころに出した新聞の折込み広告には内田のモデルハウスの常設展示場として本件家屋が所在地図及び電話番号付で掲載されていること、本件家屋には、月に一〇日くらいの割合で内田の雇ったパートタイマーの者が待機し、訪れた客に対し本件家屋内を案内していたことが認められる。

(3) 公共料金の支払等

《証拠省略》によれば、水道は、昭和六〇年七月分から同六一年一〇月分まで、使用者は「内田久雄」として届け出られ、その料金も内田によって支払われたが、甲処分後の昭和六一年一二月になって使用者が原告に変更され、料金も原告が支払うようになったことが認められる。次に、《証拠省略》によれば、電話は、加入者「内田久雄」名義で昭和六〇年七月一〇日に営業用電話として設置され、その料金は内田によって支払われ、その番号である「六二局二〇〇一番」は内田の新聞折込み広告中に「幸田展示場」の番号として掲載されていたことが認められる。更に《証拠省略》によれば、電気は、昭和六〇年七月一五日から供給が開始され、料金は右供給開始後昭和六一年末ころまで、原告の名義で、内田が支払っていたことが認められる。

(4) 原告の利用状況等

《証拠省略》によれば、原告は、昭和六〇年七月に本件家屋の引渡しを受けた以降、本件家屋に茶碗、布団、ラジオ等は搬入したが、冷蔵庫や箪笥等の主な家財道具は愛知県幡豆郡大字東幡豆字本郷一六―三所在の自宅(旧宅)に置いたままであったこと、原告の妻子は昭和六三年三月ころまで旧宅に居住し、原告自身についても、少なくとも昼間は土曜日、日曜日を含めて本件家屋を明けていたこと、また、原告は、内田の従業員に本件家屋の合鍵を渡し、内田が本件家屋を前記(2)のように展示用住宅として使用するのを黙認していたこと、そして、勤務先には昭和六一年一二月になって、旧宅から本件家屋の所在地へ住所を変更する届出をしたことが認められる。

3  判断

(一) 前記認定事実からの推認

以上の認定事実を総合すると、本件家屋は、昭和六〇年七月以降相当の期間は、内田の常設の展示用住宅として使用され、その間、本件家屋は、原告の居住の用に供されないのを常態としていたことが推認され、したがって、本件家屋の取得日である昭和六〇年七月一五日において、本件家屋は、法七三条四号にいう「住宅」には該当しなかったものと判断される。

(二) 反対書証の排斥

もっとも、原告は、本件家屋の引渡しを受けた後は、夜間には必ず本件家屋で寝泊まりして居住していた旨主張し、これに沿うかのような書証の記載がある。

しかしながら、確かに、甲三の一、二、乙一七の各住民票には原告は昭和六〇年七月七日付で旧宅から本件家屋の所在地へ住居を移転した旨の記載はあるが、その届出があった日は甲処分があった後の昭和六一年一二月六日であり、原告自身、甲処分で本件家屋が「住宅」と認定されなかったため、それへの対策として住民票上の住所の移転届出をした旨供述している。また、甲五の一、二は、原告が昭和六〇年七月一五日に本件家屋に居住していたことを承認する旨の第三者作成の書面であるが、右書面も甲、乙両処分があった後の昭和六二年九月三日に作成された書面である上、甲五の一の作成者の住所は蒲郡市内であり、甲五の二の作成者は商品先物取引のセールスマンであるところ、これらの者が昭和六〇年七月一五日当時の原告の居住常態を知っていた具体的事情は明らかでない。更に、甲七の内田作成の書面中の、本件家屋の引渡し後原告が居住していたとの部分は、内田が自己の認識として供述したものではなく、単に原告からの伝聞として記載されているに過ぎない。また、《証拠省略》によれば、幸田町は、本件家屋の固定資産税につき当初の税額を変更して税額の軽減をしているが、その認定を変更した具体的根拠は明らかでない。

以上によれば、いずれの書証も原告の本件家屋への入居日についての証明力は低く、これらを総合しても、前記(一)の推認を覆すには不十分である。

(三) 原告本人の供述、主張の排斥

前記(二)の原告の主張に沿う原告本人の供述は、要するに、満足な家財道具もなく、昼間は内田の客が訪れる本件家屋に、原告が三年近くの長期にわたって単身で寝泊まりを続けたとするものであるが、右のような事態は、原告と家族が別居しなければならないなど特段の事情がない限り、極めて不自然である。もっとも、原告は、右にいう特段の事情として、原告は旧宅で同居していた原告の実父と仲が悪く別居する必要があったが、原告の妻子については原告の長男が高校に入学するまで旧宅から転居させたくなかったことを挙げているが、原告と実父の仲が同居できない程に悪かったことを認める証拠はなく、妻子が長男の学校の関係で転居できない事情があったとしても、それだけでは原告が妻子と別居する理由としては不十分であるから、結局、右原告本人の供述は、信用することができない。

また、原告は、原告が炊事、洗面、シャワー、水洗便所の使用、庭木の潅水などをして毎日本件家屋を使用したのに対し、内田が使用したのは一週間のうち二日で一日五時間くらいであるとも主張しているが、右主張事実が認められる証拠がないばかりか、右主張を前提にすれば、原告が主に使用したはずの水道料金を初めとして、電気料金、電話料金等の公共料金を、何故に営利業者である内田が全て負担しなければならなかったか(前記2(三)(3)の認定事実)という点の説明に窮することになり、この点につき合理的な理由の存在を示す証拠がない以上、右原告の主張内容も、また不自然であるといわざるを得ない。

以上、原告の右主張及びそれに沿う原告本人の供述は、いずれも不自然であって、前記(一)の推認を覆すには不十分である。

(四) 結論

以上のとおり、前記(一)の推認に反する原告の主張は採用することができず、それを覆すに十分な証拠もないのであるから、本件家屋は地方税法七三条四号の住宅に該当せず、本件土地の取得に関し、同法七三条の二四、愛知県税条例四三条の三を適用してその不動産取得税の税額を軽減することはできない。

4  まとめ

以上の次第であって、本件土地の取得については地方税法七三条の二四、愛知県税条例四三条の三の適用がなく、その結果、本件土地についての不動産取得税の税額は一四万二四八〇円となるから、乙処分は適法である。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 岩倉広修)

〈以下省略〉

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